マーコスについて(ミニマーコス) [minicar]
(SPORTSCAR New&Ciassic No.3)
このずんぐりした妙な車は、「マーコス」がメーカーとして生み出した記念すべき最初のモデル「マーコスGT」です。
いや、「マーコスGT」も最初はサイクルフェンダーのもっと“過激”なデザインでしたが・・・
最初に量産された9台はこのカタチでした。
FRP製のボディの下は、合板を組んだ木製のシャシーが収まっています。
だいぶ昔、どこかのイベントで手に入れたこのミニカーは、
窓を塗装で表現してある等、精密に仕上げたモデルではありませんが、
実車の持つ雰囲気をとても上手く捉えていて、見た瞬間に欲しくなってしまいました(笑)
垂直なリアウインドウを囲むフィンは、このクルマをデザインしたフランク・コスティンの得意な手法ですね。
このデザインは、後のポルシェやフェラーリのレーシングカーにも影響を与えました。
若き日のジャキー・スチュアートも、このクルマでレースデビューしたそうです。
元々航空機のエンジニアだったフランク・コスティンは、弟マイク・コスティンの誘いで、
まだ生まれたばかりのロータスに参加し、レーシングカーのボディを設計します。
代表作のひとつ、ロータス11です。
モデルは手前2台がコーギー、奥のはQuartzoです。
Quartzoはキャノピー風のウインドウやフェアリング等空力的な試行が見られます。
ロータスが本格的なスポーツカーとして市場に参入した「エリート」のボディにも、
フランク・コスティンのアイディアが生かされていました。
モデルはTHE RACINGLINEのメタル完成品。
やがて、シャシーを含めて全てを自らの手で作ってみたいと思ったコスティンはロータスを離れます。
長年温めてきた、軽量で丈夫な木製のモノコックを使うアイディアは、
航空機のエンジニアとして積んできた経験を生かしたものでした。
新しいクルマを作るパートナーとして協力を申し出たのが、
クルマのアクセサリーやチューニングパーツの製造販売をしていたジェム・マーシュです。
マーシュとコスティン・・・そしてマーコス社が誕生しました。
(オートスポーツ 創刊号 ’64夏号)
実は第2回日本GPにも2台の「マーコスGT」がエントリーしています。
レースではトップでゴールしたものの、1台はフライングで1分加算、
もう1台は車検を正式にパスしてなかったので?失格、
それもそれぞれゴール後に知らされるという、後味の悪いレースでした。
創世記の日本のレース界を象徴するような不可解な判定でしたね。
と、それより「マーコスGT」が大分かっこよくなっているのがわかるでしょうか。
これは後からボディを作り直して新しく生産されたものだからです。
その訳は、マーコス社が出来て2年目の’61年、マーシュとコスティンは別の道を歩むことになったのです。
で、長~い前振りの後で、やっとミニマーコスの登場です(笑)
ミニマーコスについて書かれたものを読むと、必ずこの二人の名前が登場しますが、
ミニマーコスがキットで発売された’65年には、すでにフランク・コスティンはいなかったのですね。
合板とFRPで出来たシャシーこそコスティンの置き土産ですが、
この個性的なボディのデザイナーは誰なんでしょうね?
モデルは2台がコーギー、黒がJ・TOP43、レーシングがSTUDIO-KANです。
ミニジェムはミニマーコスの改良型で、全てFRP製(シャシーも)です。
名前でわかるようにジェム・マーシュの監修と言われていますね。
’90年代に再生産されたミニマーコスもシャシーまでFRP製でしたね。
モデルはJ・TOP43。
マーコス社はこの後、この1800GT等で北米に進出して成功を収めますが、
手間のかかる木製のシャシーや新型車の開発の遅れなどがたたり、’72年に倒産してしまいます。
その後、ジェム・マーシュの手で再建を目指しましたが、再び経営難に見舞われてしまいます。
現在は新しい経営陣のもとで、少量生産のスポーツカーを作っています。
(SCG ’95 No.29)
フランク・コスティンはその後も軽い合板製ノモノコックに、空力に優れたFRP製のボディという、
自らの名前を冠した「コスティン・ネイサン」というレーシングカーを作ったり、
木製の軽飛行機を設計したりしましたが、一時の閃きはもうありませんでした。
’70年代に入るとマーチのF1、711のボディを、技術的な興味からほとんどボランティアでデザインしました。
特徴的なトレイのようなフロントウイングが“天才”の仕事を感じさせますね(笑)
しかし、名手ロニー・ピーターソンをもってしても走らないマシンで、
失敗作という屈辱的な評価をされてしまいます。
今年もF1GPが開幕しましたが、レギュレーションの改正で新しくなったフロントウイングは、
より重要な空力パーツとなったことがわかります。
もしレース中に接触でフロントウイングを失うと、もうまともに走ることも出来ない状態です。
確かにブレーキが効いて、トラクションがかからなければ、
オーバーテイクが増えてレースは面白くなるでしょうが、
サイドバイサイドでウイングを潰してしまうと、もうそれで終わりというのでは興味がそがれますね。
ファンが望むのは、ドライバー同士の本当の意味でのバトルですから・・・
今の時代にフランク・コスティンがいれば、どんなアイディアで勝負したでしょうか。
個人的には、空力の天才といわれるエイドリアン・ニューウェイにも、
勝るとも劣らない才能の持ち主だと思っています。
ちょっと早すぎた、エアロダイナミクスの“天才”、フランシス・アルバート・コスティンは、
’95年に75歳でこの世を去りました。
* 彼の弟、マイク・コスティンは同じロータスのエンジニアだった、
キース・ダグワースとレース用エンジンの設計事務所を立ち上げました。
DFV等の名機を数多く生み出した「コスワース・エンジニアリング」です。
ちなみにミニのチューニング用オーバーサイズピストンも作っています。
オメガやコスワースのピストンなんて・・・憧れるなぁ(笑)
2009-03-30 23:33
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コメント(15)
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大変勉強になりました。
短い文章の中にとても解かりやすい
説明で、とても嬉しい講座でした!
僕のマーコス観が変わりました
まずここを見てから実物を見るといいですね♪
それにしてもこんなEF58みたいなフロントウインドウ
スポーツカーでありですかね?(楽)
ワーゲンバスじゃないんだからぁ~~~
そして、最後から2枚目の写真・・・。
この車が「コスティン・ネイサン」ですか?
なんとも愛らしい・・・はじめて見るデザインです。
とろけているみたい・・・まるでウーパールーパーですね(笑)
でもグリーンとイエローのライン、そしてゼッケンサークル(!)
むちゃくちゃ似合います! 完璧です!
by ちんたん♪ (2009-04-02 19:09)
へぇ〜!!
マーコスとロータス11は同じデザインだったのですね!?
そういえば、うどん屋のお師匠さんが、コーギーのマーコス持ってたなぁ。
コーギーはこんなマニアックな車も作ってるんや?!と思ったのを思い出しました。
弟はコスワースですか!?
兄弟揃ってブリティッシュ・レーシング・シーンには欠かせない人だったのですね!
勉強になりました〜
by merci (2009-04-03 21:09)
ちんたん♪さん
お褒めいただき、大変恐縮です。
元々はもっと長い文章でしたが、半分居眠りをしていて消してしまいました(笑)
意地になってもう一回思い出しながら書いたのですが、
適当に圧縮されていい感じになりましたね(爆)
まさしく人に歴史あり・・・ですね。
あまり知られていない、フランク・コスティンについて語りました(笑)
とっても多くの謎解きがあって、結構楽しめましたよ。
コスティン・ネイサンはこのヌメェーっとしたタレパンダのごときカタチと、
オネーサン?のような車名で忘れられませんね(笑)
(ネイサンは共同設計者の名前)
by 1275GT (2009-04-03 22:48)
ロンツーさん
弟に比べ兄貴の生き方はとてもマニアックですねぇ(笑)
きっと、楽しい人生だったんだろうなぁ。
ロータス11やマーコス1800GT、それにミニマーコス等、
コーギーは結構レアな車種もしっかり作っていますね。
コーギーの最も輝いていた時代ですからねぇ・・・
by 1275GT (2009-04-03 23:02)
なるほど~。いにしえのレース界を引っ張っていったコスティンの人生が集約された話ですね(#^.^#)。
コーギーのマーコスも、初期型のゴールデンジャッキの方はメジャーだけど、セカンドは何となくマイナーで…。まぁ、その分レア、っていうことになるんですけど。ホントにレアモデルもしっかり作っていたのに、最近はHORNBYに買いとられちゃうし…。時代の趨勢ですかね?
時代っていえば、F-1もブラウンGPがいい感じで。ホンダの置きみやげ、って言えばそれまでですけど、この調子だとスポンサーも付きそうだし、このまま大手に一泡も二泡も吹かせて欲しいものです。
by たけさ (2009-04-05 11:16)
たけささん
そういえば、このミニマーコスのブルーっていうのを紹介されていましたね。
あれはこの型を使ってどこかが作ったものなんですか?
ソリドなどは型の“流出”がすごくて全容を解明できないほどですが、
コーギーも波乱の人生ですからねぇ(笑)
昨日の大雨のマレーシアGPでもブラウンGPは快走を見せましたね。
ロス・ブラウンは、よほど今年のマシンに自信があったのでしょうね、
かなり早い段階でティーム買取を決めていたようですよ。
それにしても、膨大な開発費もテストの費用も全部ホンダ持ちで、
最後はメルセデスのエンジン・・・ですからねぇ。
撤退は社員に向けてのアピールだと、元社長の福井さんも言っていますが・・・
やはり残念でしょうねぇ。
by 1275GT (2009-04-06 08:14)
1枚目の撮り方、いいですね。
いつかの機会に、アイディアを拝借させて下さいw
by ベアトラック (2009-04-09 16:06)
ベアトラックさん
こんなマニアックな記事にまでコメントありがとうございます。
そもそもこの記事のきっかけは、
古雑誌の整理中にこの写真を発見したことに始まります。
どこかのマニアが紙粘土で作ったような不思議なカタチのミニカーが、
実車に非常に忠実に作られたものだったのに驚いたからです。
雑誌(もしくは掲載された写真)を引用させていただいた場合、
何かしらの「ことわり」が必要なのでしょうが・・・
まったく個人の日記に使わせていただいたということで、
小さく掲載されていた雑誌名を書くことにとどめました。
何ならミニカーの背景ということで・・・(笑)
by 1275GT (2009-04-10 08:20)
NOBUさん
nice!ありがとうございます。
by 1275GT (2009-04-23 12:36)
コーギーのミニマーコスの白、初めて見ました!
メタル完成品のエリートも、い~い仕上がりですねぇ・・・。
by ねこざかな (2009-04-28 04:39)
「マーコスGT」の形はひきつけられますね。
なんとも言えないかわいらしさがあります。
机上にミニチュアカーがいつも2~3台を置いて飽きたら替えということを繰り返しているんですがたまたま今、飾っているのがロータス11でした。
青のが写真のと全く同じであと同型でシルバーです、どちらも裏にLE MANSって書いてあります。
by いっぷく (2009-04-29 19:16)
ねこざかなさん
コーギーのミニマーコスは大好きなミニカーの1台です。
また、車載エアジャッキのようなギミックもお気に入りです。
このエリート、撮影のために箱から出したら、
エッチングパーツのワイパーが片方・・・(涙)
by 1275GT (2009-04-29 23:03)
いっぷくさん
当時、最先端のエアロダイナミクスは今見ると、
とても愛らしくてキュートなカタチです(笑)
ロータス11のタイヤがほとんど見えないような、
上下2分割のボディもコスティンのアイデアです。
私も車庫にある小さなケースのミニカーを、
時々入れ替えて楽しんでいますよ。
by 1275GT (2009-04-29 23:14)
はじめまして、マーコスGTを検索していてたどり着きました。
うちの近くにこの奇怪なベニアGTがあるので興味を持って拝見しました。
大変分かりやすい解説ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
by エランインブルー (2010-07-20 17:51)
エランインブルーさん
さっそくお邪魔して、この実物があるのに驚きました。
生産台数も少ないはずなのに、こんな遠い島国にも来ていたんですね。
思い付きをそのままカタチにしてしまうような、
フランク・コスティンの生き方に興味を待ったので・・・
by 1275GT (2010-07-21 21:58)